#TECCI

2016年6月2日号 vol.13

特集#03 今月のびとんリターンズ ~旅するLouis Vuitton展 Report~ (前編)

2016年06月02日 06:46 by monthly_tecci
2016年06月02日 06:46 by monthly_tecci


2015年12月から2016年2月にかけてフランス・パリの「グラン・パレ」を会場に開催され好評を博した展覧会『Volez, Voguez, Voyagez - Louis Vuitton(空へ、海へ、彼方へ ― 旅するルイ・ ヴィトン)』が、世界に先駆け日本に上陸しました。
飛行、航行、旅行を意味するフランス語(Volez, Voguez, Voyagez)の頭文字すべてが、ルイ・ヴィトン(Louis Vuitton)の"V”と一致しているそうで、素敵な偶然ですね。(…でもこの展覧会を見ると、ひょっとして必然なのでは?と思いたくなるかもしれません。)

日本の開催地に選ばれた東京・紀尾井町は、ルイ・ヴィトンが1978年に日本初の店舗を開いたゆかりの深い場所。ホテルニューオータニ近くの以前は駐車場があった場所に2,000平米に及ぶ巨大な特設会場が展覧会のために建設されました。


約1,000点のアーカイブを中心に「旅」をテーマとする10章の展示室で構成されるという、ブランド創業から現在までの歴史を総括的に振り返る大回顧展となっているのですが、これだけ豪華な規模にも関わらず、
・入場無料!!
・展示の写真撮影OK!!
・オーディオガイド(5ヶ国語対応)も無料
・お土産に展覧会のポスターを無料配布
・事前のインターネット予約で並ぶことなくスムーズに入場可能
・赤坂見附駅と銀座松屋前から無料シャトルバスを運行
・モバイルアプリを使用したエキシビション・ツアーも併せて楽しめる
という、国内開催の展覧会ではまず考えられない厚遇ぶり、というか太っ腹ぶりに驚かされ、LVMHグループの本気を感じずにはいられません。

その展示内容などのようなものなのでしょう。…10章で構成された展示室に沿い、写真を中心に紹介していきます。
なお「月刊TECCI」では、Vol.8(2015年10月27日号)Vol.9(2015年11月27日号)で「Louis Vuitton と LVMHグループ」を特集しています。それも併せて振り返ってみてください。


1章: 1906年のトランク
創業者初代ルイ・ヴィトンの大きな肖像画と、1906年に作られた木製トランクが来場者を出迎える。平蓋で中に仕切りがあり、モノグラム・キャンバスが貼られ、金属のキーロックが施された、現在の旅行鞄の元となる、ルイ・ヴィトンを象徴するトランクである。


2章: 木材
ブランドの出発点はまさに木材。荷造り用木箱製造兼荷造り職人(荷物を入れるトランクを作り荷造りまで行う仕事)であった初代ルイ・ヴィトンが、1854年にパリに世界初の旅行鞄専門店を開業し、トランクづくりを始めた。

木製の壁面と床に暖かみを感じる展示室には、中央に当時使われていた木工用具の展示を配し、創業時のアトリエや職人達の写真、広告用カードや製品ラベル,請求書や売上台帳など、ブランドにまつわる貴重な資料も展示されている。

右下は、赤十字の特別モデルである木製薬箱(1914年頃)


3章: クラシックなトランク
創業当時の旅行手段であった馬車での移動に適しているとされ一般的であった丸蓋トランクや、それを軽量化・補強・防水・安定性・実用性の面で改良し画期的な開発となった平蓋トランク、そして、顧客の用途に合わせて特別に製作されたトランクなど、様々なトランクが展示されている。
また、グリ・トリアノン・キャンバスの誕生から、ストライプ模様のレイエ・キャンバス、市松模様のダミエ・キャンバス、そしてブランドのシンボルとなるモノグラム・キャンバスといった、ルイ・ヴィトンのキャンバス地開発の歴史の変遷も見ることができる。

左上:グリ・トリアノン・キャンバスの丸蓋トランク(1860年頃)
右上:グリ・トリアノン・キャンバスの平蓋トランク(1867年頃)
左下:レイエ・キャンバスの婦人用ロー・トランク(1886年)
右下:ダミエ・キャンバスの帽子用トランク(1895年)

左:モノグラム・キャンバスのリネン用特性デスク・トランク(1932年)
右:モノグラム・キャンバスの特性デスク・トランク(2014年、アメリカの写真家シンディ・シャーマンとのコラボレーション「スタジオ イン ア トランク シンディ・シャーマン」)


4章: 旅の創造
このセクションでは、船旅,自動車の旅,列車の旅,航空機の旅と、大きく4つのパートに区切られている。
最初の展示室に入るとまず目に飛び込んでくるのは壮観な砂漠のセット。
ルイヴィトンは19世紀末から20世紀初頭にかけて国家規模で展開された探検プロジェクトに参加しており、砂や埃,湿気などの過酷な天候や地理に耐えうるトランクを製作していた。中でも、探検家のピエール・サヴォルニアン・ド・ブラザがオーダーしたベッド・トランクは必見。


<船旅>
砂漠の反対側には、展示室中央に大きなマストが立てられ、広大な海と空をイメージした船旅のセットが展開する。

上流階級の間で流行した優雅なクルーズを連想させる木製デッキに並んでいるのは、当時の女性たちが着用していたサマードレスと、今やブランドのアイコンバッグのひとつとして人気を誇るスティーマー・バッグ。
スティーマー・バッグは、長いクルーズの間に着用した衣類の洗濯物を入れておくことができる軽量のランドリーバッグで、使用しない時は折り畳んでトランクに収納できる、その利便性とデザインで旅人の必須アイテムとして発展した。

新旧のスティーマー・バッグがずらっと並び、その変遷を一度に見ることができるのが楽しい。

青・白・赤色のVのシグネチャー・モチーフは3代目ガストン-ルイ・ヴィトンが考案したもの。現メンズスタイル・ディレクターであるキム・ジョーンズが近年のメンズコレクションに取り入れて蘇らせた。

<自動車の旅>

木々が立ち並んだまっすぐ一直線に伸びる車道が表現された展示室は、室内なのに爽快な気分になり、自然と車道の真ん中に立ってみたくなる。

左:運転手の工具用トランク(1913年)
右:ドライバーズ・バッグ(1910年、替えタイヤを収納する大きな丸型のケースで、中央に収まるミニバッグもあるのだとか)

左:自動車にピクニック道具を収納したピクニックバッグ積み込み、途中休憩してはピクニックを楽しんだのだろう。
右:巾着バッグブームの火付け役となったとされる「ノエ」は、元々この時代にワインボトルを入れるバッグだった。

<航空機の旅>
展示室に入る手前で目の前に飛び込んでくるのは、青空に浮かび飛行する圧巻の航空機モニュメント。

航空機の翼に置かれているのはトラベルバッグの数々。空の旅がより身近なものとなり、旅の服装や持ち物が改良され変化するにつれ、それらを収納するバッグもコンパクト化が図られるようになった。

ブランドの初代アーティスティック・ディレクター、マーク・ジェイコブスのデザインも展示。

<列車の旅>

展示室に足を踏み入れると、流れる車窓の景色までも再現した豪華列車の客室のセットがいっぱいに広がる。見る者の心を一瞬のうちに捉え、あたかもその空間に入り込み一緒に旅をしているかような高揚感溢れる気持ちになる。
セット・デザインの美しい表現はもちろん、トランクをただ時代順に並べておくだけではない、トランクの持ち主が旅の間トランクに入れて大切に持ち運んでいたであろう私物のファッション(服,靴やアクセサリー)を交えて展示することが、そのような感動を生むのに効果的に作用している。それは、この展覧会においてキュレーターを務めるオリヴィエ・サイヤール氏と、アーティスティック・ディレクターとしてセット・デザインを手掛けたロバート・カーセン氏(オペラや舞台で幅広く活躍する演出家)が最もこだわったことのようだ。

「船旅」で展示されているサマードレスと同様に、「列車の旅」で展示されているコートやスーツなどのワードローブも、ガリエラ宮パリ市立モード美術館のコレクションから数多く出展されている。これは当然のことながら、同館の館長も務めているサイヤール氏が果たした役割が大きいだろう。
当時のファッションに加え、ルイ・ヴィトンが「服作り」を始めて以降ブランドを牽引しているデザイナー、マーク・ジェイコブスや二コラ・ジェスキエールのデザインも組み入れて展示しているのは、ルイ・ヴィトンの時代を超えたエレガンスを表現する興味深い演出だと思った。

(ちなみに、2016年3月4日から5月22日まで東京・丸の内の三菱一号館美術館で開催された『PARIS オートクチュール ― 世界に一つだけの服』も、ガリエラ宮パリ市立モード美術館のコレクションで構成され、サイヤール氏が監修した展覧会だった。)


~後編へつづく~



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