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2015年12月31日号 Vol.10

特集 Saint Laurentという理由 #03 映画にみるイヴ・サンローラン

2015年12月31日 01:43 by monthly_tecci

2011年,2014年,そして2015年とイヴ・サンローランにまつわる映画が3本も公開されています。同一人物の人生に迫る映画が没後(サンローランは2008年没)立て続けに制作されるということは、いかに彼自身が魅力的な人物であり、類いまれな才能の持ち主であったか、そしていかにドラマティックな人生を送ったかが表れていると言えるでしょう。
てっち衣装部ではこの3本の映画を鑑賞。それぞれの映画を通してモードの帝王イヴ・サンローランの生涯とその魅力を追いました。


映画『Yves Saint Laurent - Pierre Berge, L'Amour Fou/イヴ・サンローラン』(2011年公開)

2011年に公開された『イヴ・サンローラン』はドキュメンタリー映画となっています。公私ともに50年来のパートナーであったピエール・ベルジェ本人がサンローランについて語り、2002年のサンローランの引退会見を含む10万点にもおよぶ貴重な資料映像とともに綴られています。
イヴ・サンローランのミューズであり、ブランドを支えたルル・ドゥ・ラ・ファレーズ(2011年死去)や、モデルであり親友そして悪友であったベティ・カトルーのインタビューも見ものです。

サンローランとベルジェは確かな審美眼を持ったアートコレクターでもあり、古美術からモダンアート、仏像から絵画まで様々なジャンルから自分たちが選りすぐった美術品を収集していました。パリの自邸ではそれらが悠然と飾られ、ジャンルの違いを超越して不思議と見事に調和しており、本作には貴重な収集品の数々も映っています。ベルジェは「ふたりで眺めていたものをひとりで見ているのは辛い」と、サンローランの死後、これらのコレクションをすべて競売にかけ、今では世界中に散らばってしまいました。しかし、ベルジェは言います。「イヴとの時間が失われることはない」と。(なお、オークションで得た莫大な収益は全額エイズ撲滅基金として使われるとのこと。)

そして本作には、スタジアムで繰り広げられる大規模なファッションショーの模様が収録されています。それは1998年にフランスで開催されたサッカーワールドカップ決勝戦前のフィールドで、300人もの各国のモデルたちが「イヴ・サンローラン」の作品を身にまとい登場した圧巻のファッションショーでした。



映画『Yves Saint Laurent/イヴ・サンローラン』(2014年公開)

2014年に公開された『イヴ・サンローラン』はイヴ・サンローラン財団が初めて公認し、ピエール・ベルジェの全面協力により制作された伝記映画。
第40回セザール賞の7部門でノミネートされ、サンローランを演じた主演のピエール・ニネが最優秀男優賞を受賞しています。

物語は内気で才能に満ち溢れた青年サンローランが1953年にクリスチャン・ディオールのアシスタントとして働き始めた場面から始まり、序盤には一生涯のパートナーとなるピエール・ベルジェとの出会いが印象的に描かれています。新たなファッションを創造する感性を研ぎ澄ませるサンローランと、そのすべてを支えるベルジェ。純粋に相手を想いながらも時に狂気的な愛の日々の中で、二人は「イヴ・サンローラン」を一流ブランドへと育て上げていきます。
人気デザイナーとなったがゆえの多忙すぎる日々の影響か、刺激を求めすぎたサンローランは愛に溺れ、ドラッグに溺れ、精神も破綻しかけます。唯一心を休めることができる、自身の故郷に似た思い出の地、マラケシュの別荘。その地でサンローランが心を衰弱させながらも創り上げた渾身のコレクションとは…。

本作ではイヴ・サンローラン財団がアーカイヴとして所有するイヴ・サンローランの貴重なドレスの数々が実際に撮影に使用されており、見どころのひとつとなっています。また、サンローランが飼っていたペットのフレンチ・ブルドッグも映画に登場し、サンローランそっくりの主演ピエール・ニネにとても懐いていたそうです。



映画『SAINT LAURENT/サンローラン』(2015年公開)

2015年12月より日本で劇場公開されている映画『サンローラン』では、ブランドが成功して名声を得たサンローランの「天国と地獄」とも言うべき激動の10年が描かれています。
主演はギャスパー・ウリエル。2014年の映画との違いは、イヴ・サンローラン財団の公認を得ていないことが挙げられますが、だからこそ自由な描き方ができた作品なのかもしれません。
デジタルではなくあえて35ミリフィルムで撮影し、視覚的そして聴覚的にもサンローランが名声を築き上げた1960~70年代の雰囲気を醸し出し、とても効果的に演出されています。特に音楽は、ベルトラン・ボネロ監督がシナリオの段階から決めていたという力の入れよう。

生涯の伴侶、ベルジェとの関係はもちろん、映画の中にはお互いにリスペクトし合っていた現代美術家アンディ・ウォーホルとの往復書簡の文面を読み上げる場面が出てきたり、カール・ラガーフェルドの愛人であったジャック・ドゥ・バシェールとの関係も大変ミステリアスに、官能的に描かれ、サンローランの人生がいかに栄光と苦悩に満ちたものであったか、美しい映像とともに時に抽象的に、散文的にアーティスティックに綴られています。そして物語の終わりには晩年のサンローランを名優ヘルムート・バーガーが味わい深く演じています。

イヴ・サンローラン財団の協力を得ていない本作ですが、コレクションの場面で登場するドレスのクオリティーはとても高く、本物以上に本物らしいと絶賛されています。
ぜひこの機会に映画館でイヴ・サンローランの波乱に満ちた人生に触れてみてはいかがでしょうか。


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番外編:衣装部ふくちゃんコラム 【イヴ・サンローランとおてんばルル】

モードの帝王、イヴ・サンローランの意外な一面、それは絵本を一冊出版していることです。

タイトルは「おてんばルル」。
1956年、ディオールの元で働いていた20歳のサンローランが、最初はおふざけ程度に描いたとされているもので、ルルは奔放な同僚の女性をモデルとしたとの説も(2014年公開の映画にもそんなシーンが一部登場しています)。サンローランの引退記念として2002年に出版された際は、プレミアがつくほど話題になりました。日本でも翻訳され出版されています。パッと見、とってもかわいい絵柄。しかも赤と黒の2色で描かれ、一見とてもスタイリッシュでおしゃれな絵本に見えるのですが…。
この絵本、タダモノではありません。本能むき出し、おてんばルルはとーってもずるがしこくて強情な女の子なんです。

ルルの口癖はなんと「シュミュック!プリュック!」(まぬけ、かっぱらえ)∩(⊙⊙)∩
ヌードスタイルやいけないポーズをとったり、コニャックをガブ飲みしたり飲ませたり…あ・ぶ・な・い火遊びもお手のもの…(何歳なの?!)
腐った卵をせっせと作り、イースターで子供たちに配ってお腹を壊させたり…(結末は動画のとおり…残酷)、体操教室を開催し可愛い女の子たちを筋肉ムキムキのレスラーに仕立て上げたり…、かっこいい消防士を彼女から奪い去り、自分のものにするために火事を起こしたり…(犯罪!)∩(⊙⊙)∩

時に意味不明で超毒舌。ブラックユーモアに富んだ、大人のための「悪いガーリーのお手本」なのです(真似できないけれど)。「おてんばルル」のおてんばを超えたやんちゃぶりは、絵本の前書きに「前もって申し上げておきますが、ヒロインのキャラクターをもとに著者の精神分析を行うなど無意味なことです」とサンローランに述べさせるほどの破天荒・自由奔放さです。

ルルを生み出したパパ、サンローランの類まれなるユーモアのセンスはかのムッシュ・ディオールも認めていて、ルルの続編を心待ちにしていたとか。サンローランもディオールもシュールでエスプリの効いたおもしろおじさまだったのかな?と思うとその人物像にますます興味が沸きます。
興味のある方はぜひ一読を!でも決してお子様の目の届かないところに置いてくださいね。

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来月号の特集は、今月号に続く「Saint Laurentという理由」の<後編>です。
イヴ・サンローランの引退、オートクチュールの終了から、新しいデザイナーを迎え変貌を遂げるブランドとしての「サンローラン」について、そして小室さんとサンローランについても、てっち衣装部の考察(?!)を交えてお届けする予定です。



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